2008年12月17日水曜日

猫の投稿31

会計基準というのもは、経済実態を表すために用いられる道具であるが、これがまた深遠なものである。最近の日本の会計基準は、既にその自我を失い、コンバージェンスという幻想を追いかけるようになった。米国がすでにIFRSの適用を認めたことを考えると、世界中で取り残されたのは会計士や会社の経理担当者が英語を読めない日本だけである。現状ではIFRSでは不足する部分があり、結局のところ世界のスタンダードとして君臨してきたUSGAAPに頼って行くことが必要となる訳である。プロフェッショナルにはキリが無い。会社の中で何が行われているのかということを全体的に知るという意味では会計士というのはなかなか良い職業である。かと言ってそれで何か出来るという訳でも無いのだろうが、1つの企業に所属するよりも、色々なものを数字で比較するということをする職業もあまりない。アナリストのような将来予測というものは責任の範囲には含まれないのだろうが、結局のところ会計上の見積もりに対する解を見出すことが出来ず財務諸表の虚構は膨らむばかりである。会計的な素養だけでは、将来を予測するということは出来ない。企業の収益力というものを測定する手法というものは色々あるのだろうが、結局今のところは24時間働けるような人たちが評価される訳であって、新しい収益の評価方法とかそういったものにはあまり巡り合わない。
FASBやIASBによって、Fair Valueに関する基準の整備が進んでいるが、結果としてこれは裁量余地を膨らませるという皮肉な状態になっている。(いわゆるSFAS157では、Level1~3までのFair Value Hierarchyを設けることで、Fair Value Measurementに関する指針を示したが、Level2やLevel3のMappingが非常に主観的なものであり、その評価方法如何によって大きくFinancial Statementへの影響が変動することになる。)また、昨年より続くクレジット市場における混乱によって想定していた以上の証券化商品、株価等の下落を招き、Fair Value Measurementそのものの適用についての再検討という事態に発展した。れに対応すべく、FASB STAFF POSITION No. FAS 157-3 Title: Determining the Fair Value of a Financial Asset When the Market for That Asset Is Not Active がFASBから発行された。内容としては、タイトルにある通り、MarketがInactiveの場合におけるFair Valueの解釈について記載している。
Fair Valueの定義は、SFAS157 par 5, par 7にあるように、
Definition of Fair Value
5. Fair value is the price that would be received to sell an asset or paid to transfer a liability in an orderly transaction between market participants at the measurement date.
The price
7. A fair value measurement assumes that the asset or liability is exchanged in an orderly transaction between market participants to sell the asset or transfer the liability at the measurement date. An orderly transaction is a transaction that assumes exposure to the market for a period prior to the measurement date to allow for marketing activities that are usual and customary for transactions involving such assets or liabilities; it is not a forced transaction (for example, a forced liquidation or distress sale). The transaction to sell the asset or transfer the liability is a hypothetical transaction at the measurement date, considered from the perspective of a market participant that holds the asset or owes the liability. Therefore, the objective of a fair value measurement is to determine the price that would be received to sell the asset or paid to transfer the liability at the measurement date (an exit price).である。
ここでは、Inactiveなマーケットすなわち、forced transaction (for example, a forced liquidation or distress sale)に該当せず、in an orderly transactionであることが、Fair Value Measurementの前提であるということを意味している。今回のFSP 157-3については、このorderly transactionやforced transactionというものについての解釈について示しただけに過ぎず、Fair Value Measurementそのものを廃止すると言った議論は全く出ていない。Forced Saleしか選択肢が無いような状態(CDOの投げ売りなど)では、その状態でついている価格で評価することも考えることが出来るが、SFAS157では、そのように規定しているわけではなく、Fair Valueについては、上記の通り、forced transactionではなく、orderly transactionを想定しているので、このforced transactionやorderly transactionについての解釈が多大な影響を及ぼすことになる。ただこの解釈には十分留意しなければならない。FSP 157-3には下記のような記載があり、Determining fair value in a dislocated market depends on the facts and circumstances and may require the use of significant judgment about whether individual transactions are forced liquidations or distressed sales. 大きな影響を及ぼし得る判断を、企業も監査人も求められていることが伺える。これは、例えばLevel2に区分されマーケットで根がつかないために大きく価格が毀損しているものについて、Level3に区分変更することで、マネジメントによる見積もりに変更される余地があるが、これを例えば外部監査人が客観的に検証することはほぼ不可能に近いということである。
日本は時価会計そのものを凍結、といった報道がマスメディアによってなされているが、米国あるいは欧州で議論されたFSP 157-3はSFAS157によって規定される時価会計の枠組みから外れるようなものではなく、つまりMarketで客観的にPriceが確認できるものなどについて、時価評価を取りやめると言った議論などカケラもない。これは会計士協会が表明している通り、時価会計の枠組みをはずれるものではない、という意味である。時価会計について、はっきりと公表された基準があるにも関わらず、時価評価凍結という表現に日本のメディアが陥ったのは、無知であったのと同時に、何かしらの政治的圧力があったのではないかと想像せざるを得ないという意見もある。見積もりというものには限界が伴う。Best Estimateだか何だか知らないが、将来を経営者が予測することが出来ないからこそ収益が変動する訳であり、財務諸表における開示には限界がある。これを充実させていくことは、企業、監査人、アナリスト、投資家の努めであるのだろうが、定性的な情報を定量的なものへと変換することが出来ない場合も多い。不確実な状態をどのようにして表現するのかということについて、慣例が出来上がるまでには時間がかかる。慣例がある程度出来上がれば、それも一定の意味を持つときが来るのだろう。それが実際の価値を示すとは限らないが、相対的な比較をすることが出来るようになる(かも知れない)という意味では財務諸表が改善されることには意味がある。

0 件のコメント: